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狭間06エピソード集

エピソード『深夜の買い物』




目次





エピソード『深夜の買い物』


登場人物



緋昏歩

アネモネラウンジの店主。儚く艶麗な女性。


深夜の買い物




「…」



[arca] #今日の営業が終り、少し遅い時間ではあるが食材の買い出しにでる歩
[arca] #少し足りなくなったものを買い足す程度なので、台車は持っていなかった




「(牛乳と…バター…コンビニだと高い、のよね…)」



[arca] #少し遠いが24時間営業のスーパーに向かう
[arca] #縮地などは使わず、散歩も兼ねていた




「音も、空気もシーンとして、気持ち良い…」



[arca] #冷えた空気を感じながらゆっくりと歩いていく




「…(この時間だと…、やっぱりヤンキーっぽいのがちらほら溜まってる…)」



[arca] #自販機の近くや。コンビニの駐車場に若者がちらほらとたむろしている
[arca] #その傍らにはお約束のように手頃な改造を加えた二輪が並んでいる




「…」



[arca] #少し観察して、しかし決して気付かれることなく自然に過ごす
[arca] #目当てのスーパーに到着し、買い物かごをぶら下げて店内を歩く
[arca] #さすがにこの時間にもなると客足がまばら
[arca] #働いている店員のほとんどは商品の補充や検品を行なっていた




「…(お店も静か…夜ってやっぱり、良い…)」



[arca] #静けさの中でゆっくりと商品を選ぶ


恐怖



[arca] #買ったものをエコバックに詰めて帰路につく
[arca] #暖房のかかったスーパーから出ると、ツーンと鼻が痛くなった




「はなみず…」(ずず



[arca] #鼻をすすりつつ、街の明かりを眺めながら歩く
[arca] #明かりに集う人々は留まり、歩いているのは自分だけ。不思議な気分だ




「……はぁ」



[arca] #ちゃんとお似合いの白い吐息が出てきて、少し微笑む
[arca] #繁華街を抜けると、途端に人も減っていく
[arca] #初めは見慣れなかった道も大分覚えていた




「…」



[arca] #向いから来た男とすれ違う



SE

…ポトリ


「…ん?」



[arca] #男の尻ポケットから、ぽとりと何かが落ちた
[arca] #革製の長財布




「…(お財布…形は良いけど、なんでみんなジーパンにこんなの無理矢理居れるんだろ…」



[arca] #財布を拾い上げ、財布を落としたことに気付かない男に声を描ける




「すいません…お財布、落としましたよ…」


「あぁ?」



[arca] #男が気だるそうに振り向いた。金髪の典型的なホスト風の男性
[arca] #仕事帰りか、遊び帰りか。こんな時間帯にぶらついている目的はわからない。歩自身も旗から見えればそうかもしれないが、少し不気味だった




「…お財布、落としましたよ…」



[arca] #財布をさしだし、控えめに微笑む




「おぁ…どぅも…」(首だけの会釈をして歩に近づく


「っ…」(ぶるり



[arca] #その様子を見て、不意に歩の身体が震えた
[arca] #のばしていた腕をちぢこめて握る




「…ぉしたンすか?」


「い、いえ…なんでも、ありません…。はい」



[arca] #再び腕をのばし、財布をさしだす。しかし、その腕は小さく。ガタガタと震えていた




「ぁい…どうも」



[arca] #男は首を傾げつつも、財布を受け取った
[arca] #歩は、財布が手からはなれたのを確認すると、スッと素早く手をちぢこめ、震えを抑えるようにまた握った




「?…寒いんすか?……て言うか君、かぁいいね」(ニッと笑う


「いえ、大丈夫です…それじゃ…」


「ちょっと待ってよ…服は地味だけど、スタイルも良いじゃん」



[arca] #つま先を返し、立ち去ろうとした歩につく




「あ、はは…(お酒、くさい…)」



[arca] #愛想笑いをしつつ、構うことなく歩く




「うち近くなんだよね、暖取りがてら寄ってかない?」


「…いえ、結構です…もう遅いですし…」


「良いじゃん良いじゃん。そだ、じゃカラオケ行こうよ」


「きゃっ…」



[arca] #男が歩の肩に手を置いた




「あ…あっ…」(ギュッと身体が硬直したと思うと、その場に崩れる


「え?どうしたの急に」


「こ、こないで…」



[arca] #尻餅を付いたまま道の塀までズルズルと後ずさり、縮こまる




「おいおい…」



[arca] #訳がわからず、呆れる男




「……(なに?どうしちゃったの私…」



[arca] #歩本人にも訳がわからなかった。男に触られた瞬間、身体が硬直し腰が抜けてしまったのだ。



通行人

「ん?…おい、なにをやってるんだ?」


「やべ…」



[arca] #別の通行人が声を掛けてきたことで、男は状況を鑑みてそそくさと立ち去った



通行人

「お、おい!…」



[arca] #男を追うことはせず、通行人は歩に近寄る



通行人

「大丈夫ですか?あの男になにか…」


「いえ…大丈夫です…大丈夫、です…」



[arca] #己の身体の震えに困惑しつつ、立ち上がろうとするが、まだ腰が抜けたままだった



通行人

(困惑しつつ)「手をかしましょうか?」


「はい…ありがと…う…」



[arca] #手を差し伸べてくれた優しい通行人に安堵し、その顔を見上げた瞬間。また、ゾクリと背筋が強ばった



通行人

「?」


「あ、の…大丈夫ですから…お構いなく…」

通行人

「え?…しかし…」


「大丈夫、ですから…行ってください…」

通行人

「はあ…本当に大丈夫ですか?」


「…」



[arca] #再三の語りかけに頷くばかりの歩。ついに通行人も諦めてその場を去った


帰路



[arca] #震えがおさまり、なんとか立ち上がれるようになった歩はトボトボと帰路へと復帰した




「どうしちゃったんだろ…私…」



[arca] #今まで感じたことのない自分の身体の反応に戸惑う
[arca] #考えてもわからなかった。きっと、夜風が冷た過ぎたせいなのだろう。そう言い聞かせて、知れぬ恐怖が過ぎ去るのを待つ
[arca] #そのか細い背をいまだに震わせながら。


時系列


2013年1月

解説


深夜、買い物に向かう歩。落ちた財布を拾い、男性に絡まれる。

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