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狭間06エピソード集

エピソード『白いデート』




目次





エピソード『白いデート』


登場人物



無戸室近衛

無戸室邸の主。

月裏ルナ

中学3年生の魔女。


本文



近衛

(何分の一かの、グラインドブレードの模型を持って……)



[utako] #ゴゴゴ



ルナ

「なにしてんのよ」

近衛

「幹也にやろうかと」



[utako] #天からの啓示があって



ルナ

「確かに似合いそうだけど……」

近衛

「体が傾いてくるな……、ついでに重い」

ルナ

「そんなに大きければね」

近衛

「勢いで容易してみたが、これ要ると思うか?」

ルナ

「あの鉈でさえオーバーキルレベルなんだからかなり疑問ね。そもそもそんなの身に付けて外歩けないわよ」

近衛

「だなぁ……形だけだから武器としては鈍器ぐらいにしか使えねぇから、これはお蔵入りだな」



[utako] #解体して幹也と描かれたダンボールの中へ収納



ルナ

「幹也用なら、武器よりも仕事に使えそうな義手でも作ってあげたら?」

近衛

「養護施設で使えるような義手か……、柔らかい、安全、かつ程々馬力が出たりするような、か?」

ルナ

「そんなところでしょうね」

近衛

「今年の初めに仕事で義手のデザインはしたが……、高機能かどうかは使って貰わねぇと解らねぇが……まぁ調整はすぐ出来るか」



[utako] #少し真面目に精製にかかる。
[utako] #義手と言ってもそう言う形の擬似生物の創造。



近衛

「筋質は横臥達と同じ……、骨格強度は……比重の関係もあるから後で再調整するとして……、長さは確かこれぐらいだったな」

ルナ

「そうやって真面目な顔が続けば良いのにねぇ」



[SAIRU] #ボソッと
[utako] #空中に現れた光のラインが腕の形を形成し、その中を肉埋めするように別の光線が走りはじめ、ゆっくりと灰色の腕を作っていく。



近衛

「何か言ったか、今」(腕に集中しながら、気になる箇所を修正してる)

ルナ

「貴方のそういう顔は面白いって言ったの」

近衛

「……集中してる時は間抜けな顔してるかもしれねぇんだからあんまり見るなよ」(若干恥ずかしそうに背中を向けて

ルナ

「あら、中々良い顔しているわよ? 普段からは想像できないくらい」

近衛

「普段は楽にし過ぎてるからなぁ……、おっさんと乱からは生活してる時と仕事の時じゃ全然違うってな良く言われる。」

ルナ

「でしょうねぇ。少しは見直してあげる」(ふふ、と

近衛

(精製した試作義手を手にとって触りながら、変なところがないか確認し)「色々あって笑わせねぇとなぁと思って馬鹿やったりもしてたが……、思ったより枠にはまっちまってたかもな」(少し笑って

ルナ

「まぁ、そうやってすぐ調子に乗るとゼロに戻るかもね」



[SAIRU] #たしなめるように



近衛

「気が抜けなくなっちまうだろ。適度に調子に乗ってるほうが、色々と楽さな」

ルナ

「冗談よ。だけど、真面目な顔もたまには見せなさい」

近衛

「たまにぐらいならやってみるか……、と、試作は出来たんだが、色は肌色に合わせてやったほうが良いと思うか?」

ルナ

「そうした方がいいでしょうね。子供たちにも不安を与えないだろうから」

近衛

(義手の表面を撫でると色が幹也の肌の色に変わり、そこから細部の皺のディティールを刻み始める。義手と言うよりはそのまま切断された人間の腕のような出来)

近衛

「後は使ってみてもらったときに違和感があれば調整したりすりゃ良いが……、考えてみたら、いきなり義手を贈るってのもちょいと唐突過ぎたな」

ルナ

「いいんじゃない? あの職質確定小道具を渡すよりは」

近衛

「機械と執事の組み合わせなんて良いと思うんだがなぁ……、ぜひイベントに行ったときには装着してほしいぐらいだ」

ルナ

「なんのイベントよ……」

近衛

「同志の集まる色々なイベントがあるんだよ。執事オンリーとか大鉈オンリーとか」

ルナ

「執事は良いとして何よ、大鉈って……」

近衛

「そう言う世界もあるって事さな……そうだ。義手のついだ、ルナにも何か作ってやろうか?」

ルナ

「私に? いいわよ、この前作って貰ったばかりだし」

近衛

「あんまり慣れてなかったみてぇだが、ちゃんと着てんのか」

ルナ

「大事な日の勝負服ってところかしら。その機会には恵まれてないけどね」

近衛

「その機会、ワンピースが着れる季節の内に作ろうか?」

ルナ

「もしかしてデートのお誘い?」

近衛

「あぁ。」

ルナ

「ふふ、良いわよ。きっちりエスコートして頂戴」

近衛

「一丁、幹也を潰せるぐらいには頑張ってエスコートしてみるさ。……それなりに任せてくれ。」

ルナ

「えぇ、お願いするわ」



[SAIRU] #ふふ、と挑発するように笑う


白い二人



[utako] #吹利駅の改札前、休日の10時頃待ち合わせで



ルナ

(近衛にもらった白のワンピースで待ち合わせ)

近衛

(5分ほどしてから近衛もやってくるが、近くの柱の影に隠れて少し様子見)

ルナ

(チラチラと周りを確認してる)

近衛

(ほっぽり出された子猫みたいだったので、あまり待たせない内に出てくる)

ルナ

「やっと来た」

近衛

「お待たせ」(細身のストレートジーンズに、赤のVネック、白い7分袖ジャケットを着て、いつもより明るい格好)

ルナ

「ふぅん、一応そういう格好もできるのね」

近衛

「一応、外着ぐらいは持ってるさな。ルナの格好にあわせて白にしちゃみたが……揃うと少し目立つな」

ルナ

「白白じゃねぇ」

近衛

「普段暗い格好の二人だ。たまには良いさ、ルナの方は……今日も似合ってるな」(うんうんと嬉しそうに頷いて)

ルナ

「どうも。貴方も悪くないわよ」

近衛

「ありがとよ。と、……ここで話してるのもなんだ、ぼちぼち行くか?」

ルナ

「そうしましょうか」

近衛

「……大仰なデートコースなんて考えちゃいねぇから、気楽にしろよ」(ん、と手を出して

ルナ

「そうは言うけど300年生きて初めてのデートよ? まぁ、お願いね」(出された手を握る

近衛

「そりゃ、一等プレッシャーのかかる言葉さな……初めてエスコートするのが俺で良かったのか、若干不安になってきちまう」

ルナ

「ふふ、ここまで来て弱音をはかないの」

近衛

「ルナの新しい時間に立ち会ってんだ。楽しみのほうが大きいさ」(にかりと笑い

ルナ

「浮かれてヘマはしないように」

近衛

「あぁ、……ちゃんとしたデートになるよう頑張るさな」

ルナ

「よろしくね。で、これからどこに行くの?」

近衛

「北霞ヶ丘にあるレジャーランドだな。一応遊園地なんだが、色々入ってて遊べるし……今日は水族館をメインにして行こうかと思う」

ルナ

「良いわねぇ」

近衛

「一人で色々と散歩してまわってるみてぇだから、行ったことはあるかもしれねぇが……まぁ付き合ってくれ」

ルナ

「デートでは初よ?」

近衛

(顎に手を当てて、なにやら恥ずかしそうに掻いてから)「……、よし」

ルナ

「どうしたの?」

近衛

「いや、デートでは初めてってのが、思ったより嬉しくて……自分でも驚いただけさな」

ルナ

「その分私も喜ばせて頂戴」

近衛

「あぁ。」(やや恥ずかしさを残しながら頷く



[utako] #電車で移動してレジャーランドのある霞山駅へ


シーン転換



[utako] #夏休みも終わりとは言え子供連れのお客さんがちらほらと見える。有名なデートスポットでもあるため、カップル客もそれなりに見える。



近衛

「植物園を回って軽く飯食ってから、水族館行くか」

ルナ

「その辺はお任せするわ」

近衛

「何か見ておきたい所があれば言ってくれりゃぁ良いが、……改札前で待ち合わせしてる時には、ちょいと緊張してたみてぇだが少し休むか?」

ルナ

「そうしましょうか。……見てたの?」

近衛

「少しだけな、近くから見てた」



[utako] #日陰のあるベンチに移動して



ルナ

「また貴方は……」

近衛

「悪い。初めは少し驚かせてやろうかと思ってたんだが……、見てると早く行ってやらねぇとな、てなったさ。……案外、一人の時にはあぁなんだな」



[utako] #近くの自販機で冷たいお茶を買ってきて渡す



ルナ

「言ったでしょ。デートは初だって」

近衛

「昨日の夜なんかは、どうなるんだろうか、と色々と考えちまったか?」

ルナ

「まぁ、ちょっとは」

近衛

(少し嬉しそうに笑ってルナの頭を撫で) 「それだけでも誘ったかいはあったさな」

ルナ

「まだ始まったばかりよ。気を抜かないように」

近衛

「再三聞いた。(肩を竦め)落ち着いたらぼちぼち行くか」

ルナ

「そうしましょう」



[utako] #それから少しして植物園の方へと向かう。
[utako] #夏の、色の強く香りの立つ花の道を進んでいく。



近衛

「こう言う時、俺がウサギならルナはアリスかねぇ?」(腕時計を見て、手を差し出す

ルナ

「マッドハッターの方がお似合いよ。狂ってるし」

近衛

(ずるっと滑りかけ)「もう少し格好のつく役どころが良いもんだが……、帽子屋か。仕立てるのは帽子だけじゃねぇが悪かねぇな。今日のお茶会のテーマはルナとのデートだ。盛大祝おう」

ルナ

「騒々しいのは苦手よ」

近衛

「会った頃は俺の事をからかってた癖によく言うな……」(半目で見つつ

ルナ

「男が細かい事言わない」

近衛

「こいつ……(ぐぬ、と顔を顰めてから) ……まぁ、普段が騒々しいから今日まで騒がしくするつもりはねぇが、ちょいとマッドハッターのお散歩に付き合いな」



[utako] #脇に抜ける花のトンネルの小道を指して



ルナ

「私がアリスだとするなら、マッドハッターに付いて行くと碌な目に遭わないけど……。お供しましょうか、ハッターさん」

近衛

(軽く帽子を取ってお辞儀をするようなジェスチャーをしてから、ルナの手を引き、小道へと入っていく)



[utako] #トンネルの天上は高いが通路は狭く、手を引く近衛が前を進む。
[utako] #一度トンネルを抜け、赤レンガの水路の前に出る。
[utako] #飛び石があり反対にはまた花のトンネル。



近衛

「跳べるか?」

ルナ

「これぐらいなら。それとも抱えてくれる?」

近衛

「喜んで、水の上でもエスコートするさ」(膝をついて、両手を掲げ



[utako] #どうぞ、とお姫様抱っこ待ち



ルナ

「ふふ、お願いね」(すとん、と

近衛

(抱えて、とんっと飛び石に飛び移るが反対に渡ろうせずにピョンと水路の方へと降りる)



[utako] #水の上に立つように濡れずに水面に下りて、水路を遡って進む。



ルナ

「ちょっと、どこ行くの」

近衛

「花のトンネル、レンガの水路、進めばそこは好奇心に溢れた横道になる」(歌う様に言いながら進むと、わずかに周囲の草木は険しくなり、水路の底の苔も多くなる)



[utako] #通じていた多界に入り、いつのまにか古い洋風の商店街、ギャラリーの真ん中に立っていた。
[utako] #足元のタイルや商店街の各所には植物園と同じ装飾が見られるが、人間は一人も居らず、道行く者は全て異形、並びも普通の店舗もあれば怪しいお店や幻想的な宝石を売る店まで並んでいる。



近衛

「ちょいと、土産屋を先に見て回るのも良いかと思ってな」

ルナ

「まったく、演出が懲りすぎよ」

近衛

「あれが入り方なんだよ。入り口は他にもあるわけだが……、俺のひそかな楽しみの一つだ」

ルナ

「その楽しみにご招待とは光栄ね」



[SAIRU] #近衛の耳元でそっと囁く



近衛

(少しだけくすぐったそうに微笑んで、耳元で囁き返す)「……俺のエスコートは少々粗野だが、案内させて貰うさな」

ルナ

「ふふ、どうなるか楽しみね」

近衛

(あまり注目が集まる前に地面に降ろしてから、そっと腕を組むようにして手を繋ぐ)「……面白い店は、多いんだがその中でも一緒に見に行きてぇと思ってた店がある」

ルナ

「じゃあそこに行きましょう。どういうお店?」

近衛

「人形を置いてる店なんだがな。ここ最近、腕の良い人形師が頭を出して来てな。そいつの人形を期間限定で展示してるらしい」

ルナ

「ふぅん。良いじゃない」

近衛

「よし。すぐ近くだが、逸れねぇようにな」

ルナ

「手を離さないでよ?」

近衛

(少し考えてから、指を絡めるように握り直す)「これで大丈夫だろ?」

ルナ

「ふふ、良いんじゃない?」

近衛

(少し攻めたつもりだったが、思ったよりも余裕そうで安心する)

ルナ

「デートらしくなってきたわねぇ」

近衛

「そりゃデートしてんだから、少しはらしくしねぇとな」



[utako] #近付き過ぎて足を引っ掛けないように気をつけて、肩を触れ合わせながらギャラリーを進む。
[utako] #途中、軒先で怪しげな薬の調合をしていた魔女のお婆さんに挨拶されたり、豚の散歩してる狼人間に珍しがられたり



ルナ

「知り合いが多いみたいね」

近衛

「……まぁ、たまに来るからな」(若干歯切れ悪く頷き)

ルナ

「どうしたの?」

近衛

「何でもねぇ。……あぁ、ほら、ここさな」



[utako] #表を飾る装飾ガラスの綺麗な、重そうな樫の樹の扉のある店の前で立ち止まり



ルナ

「雰囲気良いじゃない」

近衛

「始めは何の店かと悩んだもんだがな……、看板もねぇ客を選ぶ人形屋さな」

ルナ

「客を選ぶ……。ふふ、そういうの結構好きよ」



[utako] #扉を開いて中に入ると、数点の種類の違う人形が四角いガラスケースの中に飾られており、それを見物し囲う様に他の人形が飾られている。奥にレジとカウンターはあるが店の中に店員の姿はない。
[utako] #ガラスケースに飾られた人形がメインの様だが、周りを囲う様に配置された人形はまるで博物館の展示物を見に来た客のように自然な仕草で置かれている。



近衛

「ちょいと気味は悪いのは、愛嬌の範囲だ」

ルナ

「まぁ、そういうことにしましょうか」

近衛

(見物客の人形達の隙間を縫うようにして、ルナが頭をぶつけないようにカバーしながら進み、最前列に出る)



[utako] #飾られていたのは短めのおかっぱに真っ赤な着物の、生きた人間のような美しい和装の人形。



近衛

「……これをちらっと観た時には、何となくだがルナに見せてぇと思ってな」

ルナ

「似てるから?」

近衛

「髪を短く刈って10cmぐらい縮めて同じ着物着せたら似てるかもしれねぇが、違ぇさな。この人形が綺麗だったから見せてぇと、一緒に観てぇと何となく思ったんだよ」

ルナ

「光栄ね」

近衛

「派手なもんでもねぇが、一緒に見れて俺も光栄だ。今この時を得られた事に、ルナの親父さんには感謝しねぇといけねぇな」

ルナ

「……ふふ、そうね。感謝しなきゃ」

近衛

「あんまりこう言う事は聞いた事なかったが、親父さんの事好きか?」

ルナ

「どうかしら。……幹也みたいな感じかしら」

近衛

「そりゃ、好きだって事なんだろうが……好きなだけじゃねぇって事も含んでんのか、悩ましい言葉だな」

ルナ

「私自身、まだ整理できてないから」

近衛

「無理に整理する事もねぇさ。その内自分の中で区切りができたり、自然と手の届く場所に物を置いちまうみてぇに自分なりの整理ができる事もある。難しい様なら俺は幾らでもお前の助けになるが、要らぬ親切なら……それでも悩む時は傍に居るぐれぇは出来るさな」

ルナ

「今みたいに?」(ギュッと繋いだ手を握る

近衛

「……これからも、ルナが許してくれるならそうしてぇな。」(ルナの顔を覗きこむように、額に軽くキスをして微笑む)

ルナ

「……悪くないかもね」



[SAIRU_] #まんざらでもない



近衛

(しっかりと握り返して)「……しかし、これじゃ受身過ぎて、ルナの言う幹也を消してにはちょいと遠いか?」

ルナ

「どうかしらねぇ?」



[SAIRU_] #くすくす



近衛

「攻めるには、って言うのもどうかと思うが……俺が作った幹也の義手、幹也の注文を除けば生身と変わりのねぇ代物に仕上げた自信がある。それ持って、ルナがした事を謝って、ルナさんを俺にくださいと申し込むか……幹也に」(うーん、と唸って考えながら)

ルナ

「何であなたが謝るのよ」

近衛

「そりゃください、なんて言う以上はそいつの事を全部背負う気でいねぇといけねぇだろ。ルナのやった事も一緒に背負うっていう証明だ。」

ルナ

「(一瞬驚いたような顔になり)……ふぅん」

近衛

「少し前なら、突っ走って幹也の所に行ってすぐそういう事を叫んでたかもしれねぇが……勢いだけじゃなくて、もっと大切にお前の願いを叶えて、ちゃんと俺が告白してから、そうした方が良いんじゃねぇのかと……」

ルナ

「あら、ちゃんと成長してるのね」

近衛

「そうか? ……まぁ、それで受身になりがちだったり、どうすれば良いのか悩んだりするのも成長なのかもしれねぇさな」

近衛

(しかし言ってから、はっきりと言葉にしてはいないものの好きだと言っている自分に気づいて静かに赤くなる)

ルナ

「ふふ、私好きよ。あなたのそういうところ」

近衛

「……」(黙って手を引いて、次のガラスケースの前に案内していく)



[utako] #耳まで真っ赤になってしまった



ルナ

「つれないわねぇ」

近衛

「……デートの最中に好きよ、なんて言われると男はすぐに調子に乗っちまうんだよ」

ルナ

「言われたくなかった?」

近衛

「……言われて嬉しかった」(若干顔を背けつつ、小声で

ルナ

「初心ねぇ」

近衛

「……スレてねぇ以上はこう言うのは嬉しいもんなんだよ。」(一度手を離して汗ばんだ手を拭い、深呼吸して繋ぎ直す。

ルナ

「面白いわねぇ。幹也にはない反応で」

近衛

「むしろ似てる所の方が少ねぇだろ。俺と幹也じゃ」

ルナ

「そうかしら? 結構似たようなものよ」

近衛

「ハードルがぐんぐん上がってんのか、素直な感想なのか……、そんなに似てるか? ……幹也も実はむっつりスケベだったのか?」

ルナ

「そういう発想になるところは似てないわね」

近衛

「近いからむしろ俺が幹也を消せると思えば、精神的な強みになる……と思う事にするが、俺は菓子作りも得意じゃねぇし、子供に好かれても尊敬される人間でもねぇぞ?」

ルナ

「女性関係よ」

近衛

「言わんとする事は解ってきたが……、幹也はどっちかって言えば肉親、友人関わらず女で苦労してきたタイプなんだろうさ。加代子さん然り、ルナ然り、他にも色々あるかもしれねぇが……」

近衛

「俺は自慢じゃねぇが、吹利に来るまで女の友達は居ても、苦労を引っ被った事も親密な付き合いになった事も……なかった!!」

ルナ

「悲しくなるような事言わない」

近衛

「……あぁ」

近衛

「……似てる所は本人にはよく解らねぇ所なのかもしれねぇが、似てる似てないは置いといても、好きだと言ってもらえる部分なら悪くねぇな」

ルナ

「ノーテンキ」

近衛

「身近な誰かみたいで好き、と言われるのは流石に傷つくが、そうじゃねぇんだろう?」

ルナ

「一応、ね」

近衛

「その濁し方はちょいと傷つくさなぁ……」(じー

ルナ

「嫌だった?」

近衛

「すぱっと違うと言ってくれると、4割り増しで調子に乗れる気がする」

ルナ

「(繋いだ手を離し、両手で近衛の顔をそっと引き寄せ)好きよ。貴方のこと」



[SAIRU_] #妖艶に微笑む



近衛

(一拍心臓が止まり、ドクンと一層高く鳴る)「……」

ルナ

「(近衛の顔を離し、クスクスと笑う)これが正直な気持ちよ」

近衛

(周りに並んでいる人形達のように時間が止まったように固まっていたが、遅れて動き出す)

近衛

「……今のは、4割増しどころじゃなく……調子に乗っちまうだろ……」



[utako] #我慢するように、ぐぅっと胸を抑えて



ルナ

「暴走しないようにね」

近衛

「……抱き締めるの暴走の範囲内か?」

ルナ

「やり方次第ね」

近衛

(一度深く息を吐いてから、ルナの耳元に手を添えてゆっくり胸元へ抱き寄せ、優しく包むように背中に手を回して抱く)「……洒落てる抱き方が出来るほど、余裕がねぇから……これで精一杯だ」

ルナ

「及第点ってところかしら」

近衛

「……あぁ、及第点でも貰えれば……幸いさな」

ルナ

「ふふ、一歩前進かしら」

近衛

「したのかねぇ……、あぁ、でも……または勘弁してくれ、さっきみたいなのは……、次はルナの言葉に応えてねぇのに……フライングしちまうからな」



[utako] #我慢するように背中をゆっくりと撫でて、好きだと言う言葉を飲み込む。



ルナ

「タイミングは重要ね」

近衛

「……本当にな。全く、人形屋で何してんだか……俺達は」



[utako] #ふと気づくと、見物客のように配置されていた人形達が、全員こちらを向いてた。子供の人形が両手で顔を隠しながら、指の隙間から覗いている。



ルナ

「見世物じゃないわよ」



[SAIRU_] #めっ、という感じで



近衛

「見物客みてぇだから、見てくるわけか……」(抱えた頭を撫でて、また軽くキスをしてから離れ、手をつなぎ直す。

ルナ

「そうみたいね。居づらくなっちゃったし、行きましょうか」

近衛

「だな。見てぇものもみたし……、そろそろ水族館の方に行くか」

ルナ

「またエスコートお願いね」

近衛

「あぁ。離さず、連れて行こう」



[utako] #人形屋を出て、ギャラリーの横道に逸れて進んでいくと、普通の道に出てくる。
[utako] #振り返ってもギャラリーは見えず、通ってきたはずの道も薄暗い通路になっていた。
[utako] #出た場所は大体水族館の横側あたり



ルナ

「中々良い体験ができたわね」



[SAIRU] #満足そう



近衛

「代わりに暫くはあそこに行き辛ぇがな……」



[utako] #恥ずかしそうに頭を掻いて



ルナ

「私を連れて行けばいいじゃない。見せ付けてあげましょうよ」

近衛

「……そんなに言うなら次は腕組みしてもらってうろうろするぞ」

ルナ

「したいなら今からでもどうぞ」

近衛

「……手ぇ繋いでくれてるだけでも嬉しいもんだが、良いのか?」

ルナ

「そっちの方がデートっぽいでしょ?」

近衛

「それじゃ……、お願いします」

ルナ

「ふふ、素直でよろしい」



[SAIRU] #ギュッと抱きつくように腕を絡める



近衛

(男からは言い出しづらい腕組みに、心の中でガッツポーズしてる)

近衛

「じゃ、じゃぁ……行くか。入り口はあっちさな」(思わずにやけそうになった顔を抑えて

ルナ

「可愛いわねぇ」



[SAIRU] #面白そうに近衛のリアクションを楽しむ



近衛

「……そりゃこっちの台詞だ。人前じゃなけりゃ、また抱き締めたくなっちまう」

ルナ

「さすがに公衆の面前でそれは厳しいわね」

近衛

「そんぐらいルナも可愛いって事だ」



[utako] #若干周囲を恨めしく思いつつ水族館に入っていく



ルナ

「さて、ここでも何か面白いことを用意してるの?」

近衛

「一応な。ただ魚眺めに来ただけじゃねぇさ」

ルナ

「どうなるのかしらねぇ」(楽しそう



[utako] #通路に沿って、日本海や瀬戸内、太平洋、琵琶湖の生物のコーナーを一通り見て回ってから
[utako] #半地下階に下りて、プレオープンの札のかかった通路の先へ入っていく。



ルナ

「また秘密の通路?」

近衛

「いや、こっちは普段も人が入れるほうさ。ただ今は新しいイベントの用意で一般客は入れねぇってだけだ」



[utako] #通路の脇に居た警備員にプレオープン招待のチケットを渡して、そのまま進む。



ルナ

「ふぅん、中々顔が広いのね」

近衛

「イベントで使う映像やらデザインを手伝ったんだよ。これでも、デザイナーでございますから」

ルナ

「そこだけは、さすがね」

近衛

「そこだけは、は余計だ。……これでも一応、名前が出てねぇところでも色々やってんだからな」

ルナ

「それを聞いて安心したわ」



[utako] #通路を進んだ先は開けており、ロビーを大きく使ったアクアリウム展となっていた。本来の水槽も壁面にあるため、半地下なのに水の中に居るような景色となっている。



近衛

「ついでに仕事の成果も見て、もっと安心してくれ」

ルナ

「そうさせてもらうわ」



[utako] #天井中央に飾られた満月をイメージされたライトを中心に、天井に投影される星の海を泳ぐ様々な魚の映像。四季をテーマにしたアクアリウムがそれを囲い、イベントに合わせて装飾された壁面の水槽では底に居る魚の泳ぐ姿が見えた。



近衛

「俺が一番手ぇ入れたのは……、あの満月のライトの下にあるメインの水槽なんだが」



[utako] #急かす様に引いて満月の照明の下、日本の童話を基にしたアクアリウムのもとへ行き、飾りの一部を指差す



ルナ

「中々凝ってるじゃない」



[utako] #何の童話の飾りなのかと疑問に思う人もいるだろうが、白いワンピースを着た足元まで髪の長い少女に華を渡す眼鏡の男の人形がちょこんと飾られていた。



ルナ

「もしかして、これ私たち?」(クスクス、と

近衛

「あぁ。どうだ? あれ飾らせて貰うの、結構頑張ったんだぞ」(にかりと笑って



[utako] #悪魔で目立たない程度のものだが、豪華な装飾を無視して一番に見せたかったらしい



ルナ

「なんだか浮いてるような気がするけど」

近衛

「職人の人にも浮くからせめて十二単を着せてくれと頼まれたが、まぁ……あの大きさなら大丈夫だって事で話はつけた」



[utako] #子供の親指程の大きさ



ルナ

「随分と我侭したのね」

近衛

「それに見合った努力はしたつもりさな」(笑って



[utako] #この男の事なので他にも色々と遊びは入れてそうだった



ルナ

「ふふ。まぁ、報われたとは思うわよ」

近衛

「ここに来るまでに帰られたら一生モノの恥だったが、それなら良かった」



[utako] #一度腕組を解いて、一人でアクアリウムの後ろの方へ行く。



ルナ

「今度は何かしら?」

近衛

(後ろに手を回してすぐに戻ってきて、膝をついてルナより目線を低くし)

近衛

「ここまで一環なんだが、まぁ……貰ってくれ」



[utako] #小柄で可愛いプリザーブドフラワーの花束を差し出して



ルナ

「よくできてるじゃない」

近衛

「小細工が過ぎると怒られるかとも思ったが……、どうしても渡したくてな」

ルナ

(受け取って)「ふふ、嫌いじゃないわよ?」

近衛

(ひとつ安心したように頭を掻いて)「そりゃ良かった。大きいもんはデートの邪魔になるかと思って、小さめの置物にも出来る奴を選んだんだが……良かったら飾ってくれ」

ルナ

「そうするわ。ありがとね」

近衛

「あぁ。……ついでに言うにはちょいと大きな話かもしれねぇが、今度フィネストラから引っ越して、家族がちゃんと住める家に移ろうと思ってんだが……」

ルナ

「当然あるわよね? 私の部屋」(ふふ、と

近衛

(少し驚いた顔して、照れた様に頬を掻き)「当然ある。……一応の誘いの台詞ぐれぇは考えてきたのに、先に言われちまったな。」

ルナ

「まだ私がそこに行くかは決まってないわよ」

近衛

「当然住むつもりだと言って貰えた気でいたんだが……んじゃ、改めて」



[utako] #咳払いして真っ直ぐに目を見ながら



近衛

「その花を幹也の家じゃなく、俺の家に飾ってくれ。ルナ」

ルナ

(あは、と悪戯っぽく笑い)「中々面白い台詞じゃない。良いわ、貴方の家に住みましょう」

近衛

(恥ずかしそうにはにかみ)「……これからもよろしく頼む。」

ルナ

「宜しくね。近衛」

近衛

(緊張が解けたように息を吐いて、ルナの頭に手を乗せてそっと撫でつつ)「はぁ……、俺としちゃまた一歩前進、と言いてぇところさな」

ルナ

「まだ完全に消せてはないわよ? それでもかなりの前進だけど」

近衛

「日々邁進を心掛ける。完全に消した時には……、溜まった想いをぶつけてやるさな」(にかりと笑う

ルナ

「あら、中々意味深な台詞ね」

近衛

「変な意味ではございません。(苦笑いして) フライングにはならねぇ範囲だと思って伝えれば……」(ちょいちょいと手招きして

ルナ

「少し期待してたのに……。それで、何?」(近衛に寄って

近衛

「幹也との関係を崩してまで傍に居て欲しいと思うぐらいに好きだ。さっきのは変な意味も……込めてねぇわけじゃねぇんだが……、そこは察してくれ」(耳元で囁く

ルナ

(くすくす、と笑ってから)「私もよ」

近衛

(赤くさせるつもりが赤くなりつつ……)「そ、そうか。……俺が気を揉み過ぎてんのか、もうきっちり言うべきなのか……心底悩むよ。ありがとな」

ルナ

「もう少し強引でも構わないわよ? 何だったら力ずくでも、ね」

近衛

「……そう言う事はちゃんとプロポーズしてきっちり決めてからにしてんだ。嫁さん囲んでもそれだけは……、守ってるとも言い難い……が……」

ルナ

「そういう律儀なところは幹也と同じねぇ」

近衛

「同じと言われちゃ……多少、強引に……行く……べきか。」(頭を抱えて、煩悩と戦う)

ルナ

「あら怖い」

近衛

「ぐっ……多少の強引さは、腕組じゃなくて腰を抱くところから始めマス……」



[utako] #ぐいっと腰に手を回してぴったりと近寄り



ルナ

「ま、今はここまでね」

近衛

「……あぁ。と言うか……色々と我慢も募ると、中学生並にこの姿勢ですら鼻血が出そうに……」



[utako] #脇腹の感触が



ルナ

「今までのムードが台無しよ?」

近衛

「誘惑ならぬ誘導しておいて……、悪い」(咳払いして少し冷静さを取り戻して

近衛

「ぐるっと見て回ったら、飯食って遊びに行くか」

ルナ

「そうしましょうか」



[utako] #水族館のカフェでランチを取ったら遊園地で夕方まで遊び、ホテルのレストランで夕食まで食べてから、ぼちぼちご帰宅コース


夜も更け



[utako] #幹也の住むマンション下まで送り届け



近衛

「今日は色々付き合ってくれてありがとな。」

ルナ

「こちらこそ。楽しい時間だったわ」

近衛

「お気に召して貰えて光栄だ。名残惜しいが……あんまり遅い時間まで中学生を連れまわすのは流石にまずいからな。」

ルナ

「もう少しすれば、ずっと一緒よ?」



[SAIRU] #挑発するように微笑む



近衛

「それはそれで……際限のない誘惑の多い事になっちまうな」

ルナ

「将来の妻よ? 今からでも早くはないわ」

近衛

「……ルナの中から幹也を消すのに身体で示す方法だってあるとは思った。幹也には出来ねぇ方法で愛を示すのは……魅力的だがちょいと違うと思ってな。」(一歩距離を詰めて、そっと顎に手を添え)

ルナ

「?」

近衛

(少しだけ顎を上に向かせ、額にではなく唇にキスをして)「だがまぁ……誘惑と魅力には負けてみる。将来の妻にこれぐらいは許されるか?」

ルナ

「……(艶やかな笑みを浮かべて)許してあげる」

近衛

「ありがとな……」(笑みを返してから、頬や首、最後にまた唇にキスをして離れ)

近衛

「これ以上はタガも外れちまうから、退散するさな」

ルナ

「私も食べられないうちに逃げないと」

近衛

(笑って)「それじゃまたな。……引越し前には幹也に俺からも話をしておくが、ルナからも少し頼むさな。」

ルナ

「りょーかい。すんなり行くといいわねぇ」

近衛

「そうだなぁ……」

ルナ

「何なら幹也と三人でも……。なんてね」

近衛

「……3者面談なら、一回はしとかねぇとな」

ルナ

「ふぅん。まぁ、そういう捉え方で勘弁してあげる」

近衛

「……流石に横臥に絶縁されそうなのは怖いからな。家族が減るのは悲しい」

ルナ

「それは私も嫌ねぇ」

近衛

「3人が駄目なんて俺が言えた言葉じゃねぇんだがなぁ……」(やや独白するように言って、頭を掻く

ルナ

「そこは弁護のしようが無いけど……。私はそれを受け入れていくつもりよ」

ルナ

「もちろん、貴方が私の中から幹也を消せたら、だけど」

近衛

「頑張るさ。いや、頑張るとは言っても……俺自体は姿勢が少し変わるだけか。ルナを変えられる様に、色々やってくさな」

ルナ

「お願いね」

近衛

「あぁ」



[utako] #デートのことを思い出しつつ、よし、と頷き



近衛

「さ、帰った帰った。マンション上がってくまでは見送ってるからな」

ルナ

「えぇ、また今度」



[SAIRU] #くるっと翻り、マンションに入っていく



近衛

「あぁ、おやすみ」



[utako] #軽く手を振って見送ってから、近衛も帰宅していく。


時系列


2013年夏

解説


近衛とルナのペアルックデート。普段白を着ない人達の普段とは違うおはなし。

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