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[HA23]保健室のおねぇさん(PLさのまる)← →[HA23]エピソード3 追憶の森にて
黒服の青年1:「いや~ご苦労ご苦労、お前がエミリオだね?話は聞いてる。源次郎のおっさんに本人確認とかされて大変だっただろう?」
黒服の青年が親しげに話しかけてくる。吹利の時とは全く正反対で戸惑ってしまう
エミリオ:「は…はい。私がエミリオです。しかし貴方方吹利の人々と全く雰囲気が違う…」
こちらが戸惑ってるのをよそにもう一人の黒服が話しかけてくる。黒服はきてはいるものの如何にも遊び人っぽい面持ちをしている
黒服の青年2:「そりゃそうだ。源次郎のおっさんは俺たち黒服の中でも職務に忠実、規律重視の堅苦しい上司だぜ。俺たちゆるい黒服の間じゃ勘弁してほしい上司だっての」
お…驚いた。譲原の黒服といえば全員堅苦しい人々を想像してたが場所によってこれほど違うとは…しかし、彼らとて譲原のエージェント、やるかやられるかの状況に突入したらしっかり仕事はやってのけるだろう
エミリオ:「源次郎さんの件は分かりましたが、こちらは前原さんの指示でオノゴロに向かうためにここまで来ました。オノゴロ行きの連絡船が停泊している場所まで向かえ、という事ですが一体どちらまで行けばよろしいでしょうか?」
その要件を伝えると早速黒服の一人が答える
黒服の青年1:「ああ、それなら横浜港に向かえばいい。ただし、チャーター便が到着するまでちと時間がかかる。その間表の世界に最後のお別れという事で街を見学してきたらどうだ?吹利とは違った大都会、きっと驚くぜ?」
大都会…どんな場所かは噂で聞いた程度だが、最後の見学というのも悪くないか
エミリオ:「分かりました。では見学に行ってきます。チャーター便がついたらすぐに港に向かいます」
こうして地下鉄があるビルを後にした
横浜は想像していた以上に大都会だった。行きかう街の人々の雑踏、騒がしい車の音、立ち並ぶビルの数々、何もかもがのどかな吹利市とは正反対の状況だった
エミリオ:(予想以上に賑やかな場所だな…気がめいりそうになるが、オノゴロはもっと都会な場所があるのか?)
などと唖然として立ち尽くしていると、どこからか声をかけられる。女性の声である
美人の保険医:「あら、ここそんなにめずらしい?」
思わずはっとして振り向くとそこに場違いな格好をした美人が立っていた。保険医の様な服装をしていて、整った顔立ちに端正な声、短くまとめられた灰色がかった髪など誰もが見ても美人、と一目でわかる姿をしていた唯一違うのは自分と同じ赤いルビーのような眼をしていた。という事だろうか
エミリオ:「いえ、吹利市からこちらに引っ越してきた者です。初めてなのでどこがどうなってるかさっぱりで…」
こちらが戸惑いつつも返事をしていると保険医の女性はこちらを興味深く見つめていた
美人の保険医:(この子…普通の人とは違う、死人のような肌に赤い目…生きてる人から感じられる気が全く感じられない)
そして、戸惑ってるこちらに心配そうに声をかける
美人の保険医:「あなた、顔色が悪いわね。それに始めてきた場所だけあって何処がどうなってるか分からないようね。なら、あなたと似たような人たちの居る場所とかどうかしら? ふふ。顔を通しておいた方が動きやすくなるわよ、お互いにね」
微笑を浮かべるとともにこちらを人外だと見破った女性はこちらとよく似た人々が集う場所へと案内しようとした。こちらの境遇を一目見ただけで見破るとはこの人は一体…
エミリオ:「分かりました。太陽光が少し眩しいと感じてたのと少し休憩したいと思ってたので案内していただいてよろしいでしょうか?」
ひとまず、今後の活動に役に立つ場所かもしれないし一度行っておこう。私はこの人についていくことにした
女性に言われるまま移動を続ける事数分、都市の雑踏から離れた閑静な裏路地にその場所はあった。騒がしいのが苦手な私にはこういった場所は有り難いが…看板を見ると暗緑色の看板に白い文字でHideandSeek(ハイドアンドシーク)と書かれていた。店外には黒いボードに丁寧な文字で今日のメニューと料理名が書かれており、さしずめ隠れた穴場とも言えるような場所だった
美人の保険医:「入りましょう。ここがHideandSeek、貴方たち人外や異能者が交流と情報交換の場として利用している酒場」
そのまま、扉を開き内部に入ると、さしずめ19世紀のパブを思わせるような落ち着いた空間となっていた。内装の上品さがそれを更に際立たせており、店内にはクラシックらしき曲が流れており来た客の精神を落ち着かせる。あの騒がしかった横浜の風景が嘘のようである。店内を見渡すとカウンターではマスターと思しき人物、テーブルには2名客が来ており、一人は食事を熱心に食らっている青年だった。白いシャツに黒いズボンのその青年は目の色を変えてひたすら熱心に食事を食べている。よほど空腹状態だったのか、それともこの店の熱心なリピーターなのか?青年が一皿食べ終わるとおかわり!と大きな声を上げて注文を出す。彼の胃は一体…
もう一人の方は黒いコートにサングラスの如何にもという青年であった。テーブルにはコーヒーが並べられておりくつろぎながら店内に備えつきか若しくはどこかの書店で買ったのか不明だが何やら怪奇系情報が載ってそうな表示の雑誌をじっくり読んでいる。もしかして、その手の情報屋なのだろうか?
カウンターの方を再度見る。マスターと思しき偉丈夫な風貌のその男は仏頂面でグラスを磨いていた。蝶ネクタイつきの衣服を着ておりオールバックの髪型がいぶし銀を思わせる風貌だった。細い体格をしているが腕の方を見ると筋肉はしっかりしており非常に強そうである。目つきも鋭い光を帯びておりどこをどう見ても隙らしき隙は見られなかった。人外相手の酒場をやっているのだから乱闘騒ぎが起きた場合それ位の使い手でなければやっていけないのだろう。現実世界でも酒場は柄の悪い連中が乱闘を始める場合があるのだから尚更、だ
一瞬、こちらが来たのを確認すると重々しい口調で挨拶した
マスター:「何時もの保険医か、ん…?そこの男は連れか?」
マスターが物珍しそうに私の方を見る。久しぶりの新人だからその様な表情なのだろうか?ひとまずこちらも挨拶する
エミリオ:「エミリオ・ウォルターバーグです。吹利から来ました。よろしくお願いします」
美人の保険医:「この子この地区始めてみたいなの。優しくお願いね」
それだけ聞くとマスターは了解したのか?こちらに歓迎のあいさつをする
マスター:「ようこそ…ハイド&シークへ…新しい来客よ。心より歓迎する」
相変わらず重みのきいた声だが、裏を返すとそれだけ人外相手の酒場でマスターをしていたから色々なことがあったのだろう。ひとまず挨拶が終わると早速開いてる席は無いか尋ねて奥の方の席が空いていると聞いたのでそこに二人で座ることにした
美人の保険医:「さて…早速休憩するとして…エミリオ君っていったわね。あなた、何でまた吹利からこんな所に?」
エミリオ:「それは表の世界で異能を使ってしまって…話せば長くなりますが…」
表の世界にあるという事は物好きな一般の客もくる場合があるかもしれない。そこでほかの客に気づかれない様自分の正体と吹利での出来事をすべて話す。当然自分がリヴィングデッドだった事、太陽光が苦手な事と異能を使ったがために表の世界から危険人物扱いされ始めた事、譲原からオノゴロに招待された事なども含めて、だ
美人の保険医:「なるほど…研究所の集団に狙われてて異能を使ったがために表の世界に居づらく…研究所というと、ピアスト家。全く変わってないわね…」
彼女の表情に一瞬陰りが見える。この人も彼らの事を知っているのだろうか…そう、私を追っている研究所の連中、ピアスト家、世界の裏で暗躍する巨大組織でその研究機関が行っていた「ある」新薬の実験として私が住んでいた村の住人は全員アンデッドとされてしまった。私はその時の犠牲者で他の住民同様モルモットの様な生活を強いられていた。耐えに耐えかねて研究所から脱走、同時期に脱走した仲間の大半が拘束される中私と少数の仲間のみが現在も逃亡生活を続けている。しかし、何故この人がそのピアスト家の事を知っているのだろうか?
エミリオ:「貴女もピアスト家の事を…いえ、それ以上は何があったかはあえて聞きません。ひとまず今日はこちらの事を何から何まで有難うございます」
美人の保険医:「ありがとう。あまりあの組織に居たときの事は思い出したくないの…」
触れられたくない過去についてはあまり聞かないようにしよう。話を切り替えるために来たなら何か注文していこうと自分もボンゴレのオーダーを出す。保険医の方はオムライスのオーダーを出した
エミリオ:「これから貴女の事はどうお呼びすれば…」
美人の保険医:「ああ、それなら私の事は保健室のおねぇさんとでも呼んでくれたらいいわ。名前…忘れちゃった。ごめんね」
名前を忘れるとは、生活する際大変な事とか無いんだろうか。しかし過去が過去だ。おそらく研究所に居たときどういうふうに呼ばれていたかなどは思い出したくないのはある意味当然かもしれない
エミリオ:「分かりました。ではねえさん。でよろしいでしょうか?」
それを聞くと保険医はうっとりした表情で満足そうにしていた
美人の保険医:「ねえさん…いいわ、すごくいい」
年下の自分にねえさんと言われると確かにまんざらでもないんだろう。それにしても…そのうっとりした表情、先ほどの大人の女性には似つかわしくない惚気た笑顔だった
美人の保険医:「気に行っちゃった。このあたりの説明をするわ」
この後、10分くらい食事を食べながら色々説明を聞いて大体の事が把握で来たらマスターに料金を支払い今後の身の振り方について2人で相談して考えているとふと先ほど怪奇情報誌などを読んでいたと思しき黒服の男が話に割って入ってきた
美人の保険医:「ところでこれから…なによ無粋ね」
ねえさんが黒服に怪訝そうな表情を向ける。私も何だろうか…と疑問を持っていると黒服の男はサングラスを光らせながらこう語った
事情通の黒服:「お前さんたち…特にそこの青白いの。吹利市でおまえを狙ってきた研究所のエージェント共が最近大勢この国に潜伏して調査を始めたようだ。どうやらオノゴロも調査対象らしく大量にテレポートマシンで人員を送り込んできているらしい。譲原の連中とすでにオノゴロで散発的な衝突などが起こっててオノゴロ住民も迷惑しているらしいがもし行動するなら黒服共に気を付けたほうがいい…」
敵はそこまで早く行動を開始していたか…オノゴロに向かっても常に気を付けていた方がいいな…そう自覚した私は黒服にお礼をする
エミリオ:「貴重な情報有難うございます。あちらに行っても油断しないよう頑張ります」
ねえさんも貴重な情報ありがと。とお礼はしたがジト目で
美人の保険医:「貴方も黒服という事には突っ込まないわよ」
と半分怪訝そうな感情を露わにしていた。するとサングラスの青年はやれやれ。と言った面持ちで自分の身の上を話し始めた
事情通の黒服:「すまない。私はもともと例の組織で研究員として働いていた。今はこの酒場などを拠点にする情報屋だ」
驚いた。今この状況でもう一人元研究所関係者が居たとは。彼は続ける
事情通の黒服:「時の知らせで連中の施設から脱走した者が居たと聞いていたがてっきりと…とにかく黒服には気を付けたほうがいい。やつらは研究所の戦闘員で仕事に関してはプロで痕跡無くやってのける事と、情報収集や裏工作などを得意としている。あちらに行っても大変だろうが頑張ってくれ。私も可能な限りお前さん達に協力しよう」
美人の保険医:「ありがとう。それじゃ、今後は利用させてもらうわ。協力お願いね」
挨拶が終わると、男は元居た場所へと戻っていった。一番左奥の目立たない場所が彼にとって特等席なのだろうか。情報屋ならそういう場所が一番落ち着けるのかもしれないが
マスターを読んで先ほどの黒服の分と自分たちの料金を払って酒場を出た。ねえさんが全ておごりで払ってくれたのと黒服の分は情報提供してくれたのでそのお礼という事でだそうだ。帰り際マスターの毎度あり…という挨拶が聞こえた
美人の保険医:「さてエミリオくん。結構面倒なことになってるようだけど、泊まる場所とかあるのかしら?」
エミリオ:「いえ、オノゴロに住居を用意すると初め聞かされてましたが…そろそろ連絡が来ても…」
そういった矢先エミリオの携帯(スマホ)に電話がかかる。電話を取ると譲原の者だった
譲原家の使い:「エミリオか、オノゴロ島行きの船舶チャーターができた。横浜港に来い」
分かりました。とスマホの電源を切ってねえさんに伝える
エミリオ:「どうやらオノゴロ行きのチャーター便が用意できた様です。そろそろオノゴロ島に向かって出発します。では」
私が横浜港に向かって移動を開始しようとしたら待って!とねえさんが
美人の保険医:「奇遇ね。私もそこで保険医として生活してる。それにオノゴロなら何があってもOK、私も行くわよ」
二人が横浜港に着くと殺風景な白い船に大勢の譲原家使用人が待ち構えていた。挨拶を済ませて船に乗るとオノゴロに向かって出発していった
1時間後、船が止まる。港に着いたようだ。オノゴロの地に降り立つとそこにも譲原家の住人が歓迎していた
前原:「来たか…遠路はるばるご苦労なこった。これからよろしく頼むぜ?兄弟」
目の前の角刈りの男に挨拶を交わす
エミリオ:「エミリオ・ウォルターバーグ…只今参りました」
前原:「まあ、住居の方も用意しといだぜ。ここから南西部の九龍市って所のアパートだが…って!ねえさん!」
途端に前原の旦那が保険医の姿を見ると角刈りの男に似合わない素っ頓狂な声を上げた。すっかり狼狽している。一方、保険医の方はにこやかな表情を浮かべている
前原:「ひ…ひとまず光輝宮に来てくれ!は…話はそれからだ!」
そのまま、島の政治拠点光輝宮に向かって移動を開始した
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