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エピソード『島への帰還』


目次


鳴雷

選抜隊のメンバー。群青色のコートがトレードマーク。

下塚

選抜隊の情報分析官。


本文

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#横浜某所。湾岸の護岸壁。
#そこに二人の釣り人が肩を並べて釣り糸を垂らしていた。

釣り人1

「……なあ、あの島なんだか知ってるか?」

釣り人2

「あ? あぁ、オノゴロ島だろ。海のど真ん中にリゾート作ろうとして失敗したやつ」

釣り人1

「ほぉ、そんな話があったのか」

釣り人2

「俺も詳しくは知らねぇよぉ。なんでも今はゴミ捨て場にする予定だってよ」

釣り人1

「はぁー。リゾートがゴミ捨て場ねぇ。世知辛いね」

鳴雷(なるかみ)

「……」

#釣り人の背後の道を、群青色のコートを着た男が通り過ぎる。
#男は釣り人の話し声を聞き流しながら、目的地へと歩みを進める。
鳴雷

「ゴミ捨て場ね……」

#オノゴロ島。東京湾に浮かぶ人工島の通称である。
#『東京湾アイランド構想』と呼ばれる、港湾地区の総合開発事業の中核として建設されたものだ。
#しかし、その計画はいつの間にか頓挫、まるで元々存在しなかったかのように人々の記憶から消えた。
#オノゴロ島は国有地であり、一般人は立ち入りできないということくらいしか、人々は知らない。
#大多数の人々はそれ以上知ろうともしないし、知ることもできないだろう。

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#護岸壁をしばらく進むと、立ち入り禁止を示す看板とフェンスゲートが見える。
#鳴雷はフェンスの前に立つ守衛に、コートのポケットから取り出した名札を見せた。
守衛

「……鳴雷さん、この付近ではIDプレートは常に首から下げていてください」

鳴雷

「わかってる。たまたまだ」

#鳴雷は守衛を避けて自分でゲートを開き、その内側へと入っていく。その後で再び名札をポケットにしまった。
#そこは開けた平らな敷地の中に幾つかの格納庫を持つヘリポートだった。
#発着スペースには既にメインローターを回し、いつでも離陸可能な状態のヘリが待機していた。
#ヘリの前でクリップボードを持ち、頭にインカムをつけた女性が整備スタッフと話をしている。
#女性は鳴雷に気づき、小走りで近づいていく。
女性

「鳴雷さん!どこ行ってたんですか!」

鳴雷

「散歩だ、下塚君」

下塚

「散歩だ、じゃありませんよ! 出発予定5分オーバーです!」

鳴雷

「少しくらい良いだろう、次にいつ帰ってこれるかわからないんだからな」

下塚

「それもそうですけど……とにかく早くヘリに乗ってください」

鳴雷

「わかったよ、わるかった」

#鳴雷の言葉を聞くと下塚はため息を一つ吐き、ヘッドセットに手を当てた。
下塚

「鳴雷到着しました、離陸準備お願いします。」

鳴雷

(開かれた後部ドアからヘリに乗り込む)「下塚君、早く乗ってくれ。これ以上遅れることは許されない」

下塚

「誰のせいですか!」

#文句を言いながらヘリに乗り込む下塚。鳴雷は彼女の手を引き搭乗をエスコートする。
鳴雷

「ドア閉めOK、ロックOK、シートベルトOK……ヘルメットは? 下塚君ヘルメットは??」

下塚

「そこにあります」

鳴雷

「ああこれか。よし、優雅に空の旅と行こう……落ちません様に落ちません様に落ちません様に」

下塚

「縁起でもない事言わないでください。怖いなら目をつむっててくださいね」

鳴雷

「うん」

パイロット

「……離陸します」

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#数十分後。
#オノゴロ島南端部。
#ここには、本島から切り離された小島、通称『空港』が存在する。
#『空港』は国際便発着の機能も供える島の玄関口としての役割を持つはずだった場所だ。
#現在は政府のオノゴロ島における唯一の拠点となっている。
#『空港』は架橋施設『ゲブラーゲート』によって、本島と接続している。
#『ゲブラーゲート』とは堅牢な防壁と各種設備、対空機関砲や重機銃等を備える。
#『空港』と本島とを繋ぐ唯一の陸路であり、侵入者を阻む関所だ。
#強固な物理的防御能力に加え、魔導術式による結界を張っている。

下塚

「鳴雷さん、つきましたよ」

鳴雷

「そうか」

#両手で頭を抱えて踞っていた鳴雷が顔を上げた。
下塚

「そんなに怖いなら船を要請すれば良かったんじゃないですか?」

鳴雷

「ダメだ、船では即応性に欠ける。それに酔う」

下塚

「はぁ……、そうですか」

#鳴雷は立ち上がり、ヘリから降りる。
#下塚も追従した。
下塚

「監督官にすぐ会われますか?」

鳴雷

「ああ、そのつもりだ」

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#『空港』内、オノゴロ島監視本部。司令室。
#オノゴロ島に対する監視機能の中枢。
#オノゴロ島を監視する巡視船、ヘリの管制を行い、各種観測機器データを集約し、島内・島外両方の脅威に目を光らせている。

鳴雷

「監督官」

監督官

「……鳴雷君か」

#鳴雷へ姿勢を正し、監督官へ敬礼した。
#鳴雷の声を聞き、監督官はオノゴロ島のデータが所狭しと張られているホワイトボードから目を離し、振り向いた。
監督官

「24時間ぶりだな。休めたかね?」

鳴雷

「できる事なら後24時間欲しい所でしたが、体調は万全です」

監督官

「我々も選抜隊には十分な休暇を与えたい所だが、知っての通り人手が圧倒的に不足している」

鳴雷

「理解しています」

#政府によるオノゴロ島の監視は原則『空港』および島の領海内で行われる。
#つまり、本島には上陸しない。
#他界と化しているオノゴロ島は、日常社会とは比類できない脅威が潜んでいる可能性がある。
#それらを無闇に刺激し、その意識を島外に向けさせてしまう事を懸念した政府は大規模な調査を早々に断念した。
#そしてそれ以上に、オノゴロ島の脅威に耐えうる人員はごく少数に限られるのだ。
#選抜隊。それはその極少数を示すものだ。
#選抜隊は警察、自衛隊などが擁する特殊人材を選抜し、オノゴロ島に耐えうる部隊として編成された。
#政府がオノゴロ島での活動を許した部隊のひとつだ。
#その任務はオノゴロ島と外の境界を超えようとする者、超えた者を拘束し無力化する事である。
監督官

「この24時間で変化があった」

鳴雷

「変化、ですか?」

監督官

「そうだ。島の深部の状態は安定している。相変わらず島の外には関心がないようだ」

監督官

「だが、”外”の奴らは違う。興味を持つ者が増えている」

鳴雷

「ふむ…、良くないですね」

監督官

「無論だ。空間歪曲や質量転送の反応を、ここ12時間以内で少なくとも十数回は探知している」

鳴雷

「譲原家はどうですか」

監督官

「芳しくはない。だが上からの通達がある以上手は出せん」

監督官

「我々は政府の意向に反した不当越境者の捜査と拘束を引き続き行う」

鳴雷

「了解しました」

#監督官は頷き、ひとつのファイルを鳴雷に渡した。
監督官

「早速だがやってもらいたい。譲原家から南スラム街に越境者が潜伏しているとの情報が入った」

監督官

「ここ数時間の空間歪曲に関与している人物という情報が入っている」

監督官

「詳細はファイルを確認してくれ。では解散だ」

鳴雷

「了解しました」

#鳴雷は監督官に向けて再び敬礼する。
#監督官も鳴雷へ敬礼を返した。

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#オノゴロ島南部。
#空港からゲブラーゲートを通り本島へ渡ると、そこには舗装された道路と区分けのみがされた更地が広がっている。
#空港からほど近いこの近辺は高級ブランド店を集めた商業施設が建設される予定だったそうだ。
#施設が建設される前に島は閉鎖されたため、周囲には建物らしいものはほとんど存在しない。
#この付近には『住人』が近づく事はほとんどない。
#何もないここに近づく必要がない以上に、ゲブラーゲートを警戒しているのだ。
#ゲブラーゲートは許可なく橋に近づく者に対して、手順をふまえた発砲許可が与えられている。
#島の海岸付近に居る『住人』の大多数は、ここが秩序社会ではないことを除けば外の世界とほぼ変わらない普通の人間だ。
#特異な能力を持つ者もそれほど多くはない。
#そう言った者達にとってゲブラーゲートの武装は十分驚異的なものなのだろう。

鳴雷

(太い道を北へ歩く)

#島はその異質な力で空間が拡張されている。その影響は島の中心へ向かう程強くなっていると報告されている。
#本来あるはずのないものがあったり、島が見かけ以上に広く底が知れないのはそのせいだ。
鳴雷

「一体、どうなってるのかね……」

#鳴雷の見つめる遥か遠くに、山脈のようなものが見えた。
#人工の埋め立て地であり、平らに整えられたオノゴロ島には本来あるはずのないものがそこにある。
#これも島にある異常のひとつだ。
#未だその山脈まで到達したものはいないため、それが幻か現実かは定かではない。
鳴雷

(山脈から目を離し歩みを進める)

#もうしばらくすれば島の『住人』が集まるスラム街に到達する。

---

#オノゴロ島南部。南スラム街。
#鳴雷が初めてそこを訪れたとき、驚愕を禁じ得なかった事は言うまでもない。
#そこにはれっきとした人の住む街があったのだ。

SE

ワイワイ、ガヤガヤ

住人1

「安いよ安いよ、旦那さんこのマントどう?」

鳴雷

「俺には必要ない、そもそも盗品は買わん」

住人1

「げ……そそ、そんなことないよ。全部真っ当な品だよ」

鳴雷

「そうか?とにかく興味ないんでね」

#鳴雷はスラムの市場を歩き、目当ての人物を捜した。
#街の様相は廃材と低質なコンクリートで成り立つ、非常に雑多としたものだ。
#文化様式は日本のものに酷似しており、人種も日本人の様で公用語も日本語。
#しかしそのモラルや生活レベルはあまり高いものとは言えない。
#電気や水道の通っていない場所も多く、頻繁に非道や暴力が横行している。
#だが、こんな街にも秩序というものが存在している。
#発見当初から、この街には『コンクリートの王』と言うリーダーが存在していた。
#この街で使われるコンクリートを製造しているとされる一派の長であり、南スラム街の権力者だ。
#その『王』が公布する法律がこの南スラム街を統治している。
#その法律は素人でも稚拙なものだと分かるほどだが、効力は南スラム街では絶対的である。
#南スラム街でしか通用しない限定的な法律だが、その『王』がここを支配するには十分なものだった。
#この南スラム街での捜査において、彼の目を引かないことがまず第一の鉄則である。
鳴雷

「すいません、この男を見ませんでしたか?」

住人2

「あぁ? ん~、しらねぇな」

鳴雷

「そうですか、もし見かけたら第3区の鳴雷事務所に」

住人2

「あー、わかったよ」

#住人に走り書きの地図を渡してその場を後にする鳴雷。
#鳴雷はこの街にセーフハウスを構えている。幸い、この街でも円通貨は通用する。
#……裏を返せば、この街は何らかの方法で日本国の資本と繋がっているという事だ。
#今回追っている不当越境者など序の口で、既にかなりの人口や資産が日本からオノゴロ島へ流れている事も考えうる。
鳴雷

「……(まさに草の根だな)」

#情報源である譲原家すら信用はできない。
#彼らは政府からオノゴロ島への干渉を黙認されている外部組織。例外中の例外だ。
#その目的は政府と同じとされているが、果たしてそれが真実であるか。疑わしいところである。
#彼らが外界からオノゴロ島へ相当数の何者かを引き入れているという情報もある。
#今回の情報も、譲原家が手に負えなくなったものの後始末であるという事も考えられる。
#だが鳴雷には譲原家に手を出す事を許されていない。
鳴雷

「お役所仕事はつらいねぇ」

#そうつぶやき、鳴雷は捜査を続行する。
#謎に満ちたオノゴロ島に、夕暮れが近づいていた。

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時系列

2015年。冬。

解説


HA23のサンプルテキスト。

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